トライアスロンイン上五島2015
今年で競技生活は25年目になるが、今までこんなにも開幕戦に不安を感じたことはなかった。昨年から今年にかけて仕事が忙しく、家庭の事情もあって練習がままならない。その上、何とも言えない疲労感が常にあった。脚全体のだるさと筋肉が凝り固まったような状態…ランの走り始めは膝が突然ガクッと落ちたりすることがあって、練習自体も辛かった。そんな状態ではあったが、5月の連休中は集中して練習することが出来たおかげで、少しずつではあるが調子は上向きで本番を迎えた。
今年は伊藤君と優勝を争う池形君が、次週にレースを控えているためリレーの部でのエントリーをしていた。一方、地元でもおなじみの強豪選手である山野さんが久々に参加している。総合順位次第では年代別を争うことになる秦さんもいるので、表彰台への道は今年も厳しそうだ。
午前9時にスイム2kmがスタートした。秦さんのすぐそばからスタートしたので、横を泳ぐ姿が見えている。ここ数年は同じか少し速いくらいのタイムで上がっているので、様子を見ながら後につく…つもりだったのだが、あろうことか序盤からどんどん離されていく。そればかりか、周りの選手がみんな自分より速く泳いでいるように感じた。心なしか手と足の動きのリズムがバラバラになっているように感じる。正直、ずっと感じている疲労感がまったくなくなったわけではなかったが、少なくともレースが出来るくらいには回復しているはずだった。しかし気持ちとは逆に体は動いていない現実がそこにあった。
そんな状態だったので、バトルから抜けるのにはいつも以上に時間がかかった。一つ目のブイを回る頃に、ようやく順位が落ち着いた。今回のコースは正三角形ではなく、二等辺三角形のようだった。つまり、沖へ向かう距離と浜へ向かう距離が長く、浜と平行に泳ぐ距離が短い。なので、2つ目のブイまではすぐだった。この頃には泳ぎのリズムもつかめてペースも落ち着いてきた。前には2人の選手が泳いでいる。一人はリレーで参加している長崎の前田さんのようだ。ペースが同じなので、しばらく後につかせてもらった。浜に近づいてきた頃、前田さんのペースが落ちたように感じたので、少しペースアップして追い抜く。少し調子が上がってきたかも?そう思いながら浜に上がり時計を見る。13分45秒ほど…正直遅い…前の選手もだいぶ離れてしまっていたので、しばらく一人旅になりそうだった。
2周目はバトルがない分、少し楽に感じる。コースアウトしないように時々前を確認しながら自分のペースで泳いだ。前の選手には追いつけないが、後から抜かれることもなかった。浜に上がってタイムを見ると28分15秒ほど…ラップタイムは14分30秒とペースは落ちているが、順位は落としていないのでよしとしよう。
3周目は一つ目のブイが近づく頃からうねりが出はじめた。呼吸と波のタイミングが微妙にずれて、たびたびストロークのリズムが崩された。一つ目のブイを回ってもしばらくはうねりの影響を受けながら泳ぐ。何人か選手を追い抜くが、明らかに周回遅れの選手だった。大幅なペースダウンも覚悟しながら浜に上がって時計を見ると43分ちょっと…ラップは15分程度といったところか…思ったよりは落ちていなかったので少しほっとしながらタイム計測のエリアを通過した。タイムは43分26秒…出遅れた感じはしたが、まだバイクの数は多かったので、全体的に遅いようだった。
バイクに移って最初の上りで一人選手を追い抜く。しばらくして最初の頂上の手前で沖縄の千葉さんを追い抜いたくらいから、バイクの調子は良いように感じた。しかし、ここからはなかなか前の選手を捉えることが出来ない。米山もずっと一人旅だった。かなり出遅れたのか?またはそんなに調子が良くないのか?少し焦りに似た感覚もよぎったが、そんなことを考えても仕方がない。もともと絶好調で迎えた訳ではないのだ。今自分に出来る走りをするだけだと言い聞かせながらペダルを踏んでいった。
2周目に入る頃、ようやく前を走る2人の選手を視界に捉えた。まだ1周目を終えたところなので、周回遅れではない。頂上手前で追い抜き、そのまま下りに入る。下りの勢いを利用して、次の上りに入る頃にはもう一人選手が見えた。当然1周目よりスピードは落ちているが、不思議なもので追い抜くときにはメーターの数字以上のスピードが出ているような感覚になる。抜いた直後に勾配がきつくなるところもそのままの勢いで走りきることが出来た。
しばらく下って、小刻みなアップダウンのある海岸線沿いのコースを走る頃には周回遅れの選手が前に見えた。アクアスロンの選手も多く走っている。うっかり追突しないように、下りのブラインドコーナーは慎重に走った。
2周目の米山もさほど辛く感じずにクリアする。下っている途中で、ハンドサイクルで走る五島市の川谷さんを追い抜いた。川谷さんは交通事故の後遺症のため、足が動かない。以前、リレーの部でスイム担当として出場したことがあったが、今回は単独での出場だ。周回遅れなので、もう1回米山を上ることになる…「がんばって!」と一声かけて追い抜いた。
下りきったところでコースを離れ、港の前を通ってバイクフィニッシュへ向かう。奈良尾大橋に差し掛かると強烈な向かい風に出迎えられた。ここでがんばってもあまり意味がないので、ランに備えるべくバイクシューズを脱ぎながら走る。
バイクトランジットに入ると、バイクの数はそう多くはなかった。現在7~8位くらいか?当然、秦さんのバイクもあった。(というかラックは隣)伊藤君、山野さん、女子トップであろう柴田さんが前を走っているだろう…そして知らない選手のバイクが1台?2台?やはり年代別表彰は秦さん頼みのようだ。
ランシューズを履いていると、後続の選手がバイクフィニッシュに近づいているようなアナウンスが聞こえた。追い上げられている気配はなかったが、ずっと後にいたようだ。逃げ切れるだろうか?そんな不安を残したままランをスタートした。
後から迫られている状態ではあるが、ここのランはまず自分に負けないことが重要だ。上りでただでさえ重い足がなかなか前に出ない。1kmでのラップは5分を少し切るくらい…やはり遅めの入りだが、後からの気配はまだ感じない。
2km地点…墓場の前の激坂に差し掛かる直前ではキロ4分30秒まで上がってきていた。普通に走ればまず大丈夫…そう言い聞かせながら激坂を上る。
頂上にはエイドがあって、地元の高校生たちが水やスポンジを差し出してくれていた。そのときに選手の名前を呼んでくれるのだが、僕が過ぎてしばらくしてから声援が聞こえる。
「○○口さ~ん、がんばって~」
明らかに「坂口」ではない…
とても後が気になったが、振り返らないことにした。
頂上を過ぎてからは海岸線に出るまでしばらく下る。途中でバイクを降りて休憩している選手がいた。諫早の古賀さんの息子さんだ。彼は昨年まで上五島高校に在学していて、写真部としてレース写真を撮ってくれていたそうだ。今年は大学生になって、親子で出場している。一声かけると「足が攣って…」と、かなり辛そうだった。
海岸線に入ってしばらく行くと、トップの伊藤君がダントツで走ってきた。昨年は柴田さんとのデッドヒートを目の当たりにしたが、今年は余裕がありそうだ。
僕のほうはというと、エイドや沿道の声援を聞くたび、次の声援までの間隔を測っていた。どうやら「○○口さ~ん」は「原口さ~ん」のようだ。そしてその間隔は確実に短くなっていった。
2位を走る山野さん、3位を走る柴田さんに続いて、40歳代と思われる選手(ゼッケン番号で大体判断できる)とすれ違う。そして5km過ぎのエイドを過ぎたあたりで秦さんとすれ違った。秦さんは現在5位で男子では4位だ…ということは、このままの順位だと年代別1位は秦さんで、前の選手(男子)を抜いても年代別1位が入れ替わるだけである。つまり、他力本願ですらなくなってしまったのだ。
ここで少し気が抜けかけたのだが、後ろから迫る原口さんには抜かれまいと力を入れる。6kmの折り返しの手前は上りになっていて、ここで引き離すべくペースを上げた。上りの途中で6位の選手(おそらく30歳代)とすれ違う。そして折り返しが見えたところで自分が現在7位であることを確認するとともに、折り返しで原口さんの姿を初めてはっきりと見ることが出来た。
少しペースを上げたおかげか、若干差が開いているように見えた。しかし、原口さんの足は軽そうである。このままでは追い抜かれてしまいそうだった。折り返しを過ぎてからの上りで力を入れる。後が気にはなったが、振り返らなかった。
エイドで声援を聞く…僕への声援の後に続く、原口さんへの声援までの間隔は確実に短くなっていた。そして7km過ぎ…自分が失速しかけていたのもあったが、原口さんが一気に追い抜いていった。残りの距離と今の状態を考えれば、無理して追うことも出来なかった。少しずつではあったが、差が開いていく。とにかく集中力を切らさないように努めた。
後から迫ってくる選手はいない。どうやら順位は確定したようだった。最後の上りもクリアし、あと2kmあまり…躓かないように注意しながら下る。開会式会場の「しおさい」の横を通って、港の前の道をしばらく行くと残り1kmだ。交差点を右折して最後のトンネルに入る頃、ちょうど出口に差し掛かる原口さんが見える。差は1分ほどか…残り1kmを切って追いつくような差ではなかった。
結局そのままフィニッシュ。3時間14分52秒、総合8位で年代別は2位という結果になった。またも表彰台を逃したのは残念だったが、練習不足の不安がある中、ここまで走れたことが素直にうれしかった。それは今現状での力は出し切れたからだと思う。今年はあと7月の長崎西海に出場して、早くもシーズン終了となる。練習不足の不安が全くなくなったわけではないが、しっかり準備して臨みたいと思う。
坂口晃一