長崎西海トライアスロン2015

「日本一のローカル大会を目指そう」…そんな思いから始まったこの大会は今年で23回目を迎え、初心者からエリートまでみんなが会場である「大島」を楽しめる「トライアスロン祭り」と銘打って開催された。51.5kmのショートはもちろんのこと、キッズやチャレンジ、ライト(半分の距離)、リレーなど、種目も充実している。また、歴史ある天草での大会が急遽中止になったこともあってか、大会史上最大の700人近くの選手がエントリーしていた。

思った以上に走ることができた上五島の大会から1ヵ月半…少しでも調子を上げるべくトレーニングしたつもりだったが、体の芯にある疲れがなかなか取れないでいた。直前に走った十三峠のタイムも伸びず、ずっと続く脚全体のだるさが軽くなることはなかった。

長崎の高木さんとランでのアップをご一緒させてもらう。そんなに速いペースではなかったが、足が前に出ず躓きそうになる。ストレッチや流しを入れながら、凝り固まった内転筋を何とかほぐしていった。アップするのさえ辛い…正直そんな状態で走るのは不本意だったが、今年はこれで最後のレースである。折れそうになる気持ちを何とかつないでスタートについた。

キッズやチャレンジのレースが終わり、いよいよ9時にレギュラーのレースがスタートする。上五島の大会よりはるかに人数が多いのだが、今回は比較的早く自分のコース取りができた気がした。台風の影響が心配されたが、波やうねりもなく穏やかなコンディションだ。

コースは漁港の中を周回する、少し変則的な周回コースで、約600mを2周半する。スタートから沖合いへ向かって進み、ブイを回った後は漁港にあるブイを目指して泳ぐ。昨年までこの間はコースロープが無く、目測を誤った選手がコースアウトしてしまうことがあった。しかし今年からコースロープで泳げる範囲が区切られていて、コースアウトの心配は無くなった。といっても、右にも左にもコースロープがあり、そのどちらかに沿って泳ぐとかなりのロスになることは明白だった。なので、最初のブイを回った後は右へ左へ…バラバラの方向へ行く選手の間を縫って泳がなければならなかった。

再び漁港に戻ると、今度はブイを左へ回り、すぐ右手に見えるブイに沿って右へと曲がっていく。そして目の前に現れるポンツーンに上がると一周目が終了だ。ここでタイムを見ると12分30秒ほど…若干遅めだ。イーブンで行っても30分は少し超えるだろう。しかし大体予想はしていたので、それほど気落ちせずに二周目に向かった。

二周目の中盤になると後からスタートした選手が周回遅れのような形になって、それに追いつき始める。また、逆に後からスタートした学生や速い選手に抜かれ、一周目とは違った形の混雑が生まれた。それでも比較的思ったとおりに自分のコース取りができたおかげか、タイムを確認すると25分10秒…ほぼイーブンで泳げていた。

ここからは上陸地点となる岸壁に向かって、少しコースロープから外れて泳ぐことになる。日差しがまぶしく、ヘッドアップしても前方が確認しづらかった。しかし、同じように岸壁を目指す選手が固まって泳いでいたので、それを目標に泳ぐ。

岸壁にある階段から上陸してタイムを確認する。30分30秒ほど…やっぱり30分を超えてしまっていた。ここからトランジッションエリアまでは少し走らなければならない。結局、計測地点を通過したときには31分32秒(49位)になっていた。

完全に出遅れた形となったが、ここまでの練習での調子を考えれば当然の結果だった。それほど焦ることもなくバイクに移る。徳万海岸からの上りでいつものように何人かの選手を捉える。若人の森を左手に見ながら下る海岸線沿いの道は向かい風の時が多いが、今年は珍しく風はほとんどないように感じた。

Bike

 大崎高校前を通って崎戸との分岐点を右手に曲がると、小刻みなアップダウンが続く。ここで数名の学生選手に混じって高木さんが追い抜いていった。学生選手が若干固まっていたので、「ドラフティングするなよ!」の意味をこめて一声かけてからポジションを取り直す。高木さんが先頭を引いて、その後に学生選手がいるという形の集団から少し離れてそれを追った。

コース最大の難所である塔ノ尾の上りに差し掛かると固まっていた選手たちがバラけ始める。どちらかというと平坦基調のこのコースでは、自分にとっては順位を上げる数少ない箇所だ。ここで高木さんも追い抜くことができた。

ここから一気に差をつけたいところだったが、下りきったところで高木さんが追いついてきた。トンネル手前のちょっとした上りで少し差を詰めるが、次の下りでまた差をつけられてしまう。

海岸線沿いの平坦区間は風もなく、いつもより走りやすかったが高木さんとの差は少しづつ開いていく。牛ヶ首辻の上りでも大して差が詰まらず、防波堤のコンクリートが続く区間では完全に突き放されてしまった。

高木さんが完全に視界から消えてしまったので、無理に追うのはやめて自分のペースに戻す。民宿大島前の上りをクリアして下りきったところから、造船所を左手に見ながら走る平坦な区間でも風はなかった。気持ち良く加速していくのだが、前を追うという走りではないせいか、イマイチ気持ちが盛り上がってこない。

造船所の構内に入って折り返す手前で、高木さんとの差を確認する。思ったよりは離れていなかったが、この先バイクで追いつけるような気がしなかった。というより、一番不安を感じているランで逆転できるとは考えにくい。
「今回は負けてしまうかな…」
そう思いながら二周目に入った。

二周目に入っても、あまり風のない状態は変わらない。気持ちが切れたとまではいかないが、さほど厳しくないコンディションのせいか、惰性で走っているような感覚だった。

そんなときに、一人の学生選手が追い抜いていった。彼は少しこちらを見て、声をかけてくれたようだった。前日、宿で話をした大学生のようだ。彼は今年を最後にレースを離れるのだという。ここで少し気合いが入った。

塔ノ尾の上りで彼の後を追う。当然ながら差はなかなか縮まらない。むしろ少しずつ離されていく。学生選手は後のウェーブでスタートしているので、仮に追いついたところで勝てるわけではない。しかし彼を追うことで、切れかかっていた気持ちを繋ぎ直すことができたような気がした。

周回遅れの選手を追い抜く中に、同じウェーブの選手も見られる。一気に追い抜く勢いはなかったが、少しずつ差を詰めて確実に順位を上げる。抜き返されることもあったが、バイクフィニッシュも近くなっていたので無理に追うこともなくランに備えた。
ランに入る頃には、バイク終盤から感じ始めていた暑さが徐々に堪えるようになってきた。トランジッションエリア出口のエイドでしっかりと給水する。脚のだるさや重さは、アップのときに感じていたそのままだった。足が前に出ない上に、無理にペースを上げようとすると足がもつれて躓きそうになる。内転筋に力がしっかり入らず、脚全体が不安定な感じだ。こんなときは自然にペースが上がるのを待つしかない。

寺島大橋に差し掛かる上りで、一般女子のトップを走る選手に追い抜かれた。ついていけないペースでもなかったので、合わせて少しペースを上げる。そのおかげで早くも順位を上げることができた。

しかし、その女子選手との差は少しずつ開いていく。ランコースは、大島大橋を渡りきって呼子トンネルを抜けた先を折り返してからが勝負所である。前を走る選手を見据えながら、最低限今のペースを落とさないように走った。

Run

 距離表示と時計を見ながらペースを確認する。キロ5分のペースは上がることがなかったが、逆に落ちることはなかった。良いのか悪いのかわからない不思議な感覚の中で、自然にペースが上がるのをじっと待つ。

折り返してくる選手の数を数えていると、呼子トンネルの手前で高木さんの姿が見えた。一般男子の20位あたりだろうか。暑さもあってかなり辛そうだ。こちらのペースも上がらないが、このまま耐えれば何とか追いつけるかもしれない。

呼子トンネルを抜けて折り返したときに一人の選手に抜かれた。折り返しに向かう選手を見ると、程なく追い抜いていきそうな勢いの選手もいる。しばらく行くと地元の原さんとすれ違った。いつもはもう少し先ですれ違うのだが、今年は例年より差が開いていないようで少し焦る。残り半分を過ぎて、ここから上げていきたいところではあったが、暑さが更に堪えてきた。まだつぶれるわけにはいかない。

大島大橋に差し掛かり、6km地点でのタイムは30分と少し…いまだにキロ5分ペースである。なかなか乗り切れないもどかしさがあったが、逆に周りのペースが落ちてきたのか、一人また一人と前の選手に追いついていく。その中に高木さんがいた。一気に…とはいかなかったが、心なしかスピードが上がった気がした。

寺島大橋を渡って下りに入る頃にようやくペースが上がってきた。苦しいのは相変わらずだが、この先に待っている「お楽しみ」のためにひたすら前を見据えて走る。

ファミリーマートの前を過ぎ、急坂を上って橋を渡った先にその「お楽しみ」は今年も待っていてくれた。私設エイドによるスイカである。今年はよくわかるようにスイカの提灯が吊り下げられていた。毎年この私設エイドでのスイカには助けられているので、本当にうれしかった。大きな一切れをもらってほおばる。残り2kmになってこの日一番元気になった気がした。

団地の中の急坂を下って少し行った先を折り返し、また先ほどの急坂を一気に駆け上がる。最後のひと踏ん張りが一番苦しい。歩いてしまいそうになりながらも、前の選手に何とか追いつけそうだったので懸命に走った。

商工会へ続く下り坂から県道に入ると、もうすぐフィニッシュだ。先ほど前に見えた選手に追いつき、今度は一気に追い抜く。ランスタート時に追い抜かれた一般女子トップの選手にも、がんばれば追いつきそうだ。追いついたところで2分差スタートなので、勝つことはないが関係なくスパートをかけた。

結局、その選手に追いつくことはできなかったが、最後の最後にスピードを上げて走ることができた。タイムは2時間32分3秒…一般の部完走263人中26位となった。

表彰式後に張り出されたリザルトの内容を見ると、バイク終了時27位でフィニッシュは26位だったのは不思議だった。というのも計算では5つ順位を上げたはずなのに、1つしか順位が上がっていなかったからである。今年は初出場の選手が多く、おそらくその選手たちが後のウェーブでスタートして自分よりも速かったのだ。結果として、上げた順位とほぼ同じ数だけ順位を下げていた。しかも前の選手2人が後のウェーブの選手で、その差が6秒だったのはなんとも悔しい結果だった。

ここ数年の疲労が抜けず、体のあちこちに故障が出てきている。今年は特にそれが顕著に現れ、成績もぱっとしなかった。今年のレースはこれで終了なので、しばらくはゆっくり休んでリフレッシュしてから、来シーズンに向けての準備を少しずつ進めていこうと思う。

坂口晃一