トライアスロンイン上五島2014

「レースの先には竜宮城が待っている。」誰が言い始めたか、この大会の代名詞としてこんなフレーズが聞かれるようになった。規模は小さいが、長崎県で一番の歴史を持ち、同時にリピーター達が愛してやまないのがこのトライアスロンイン上五島大会である。「竜宮城」と称されるのは「食の祭典」と名づけられた完走パーティーで、まさに竜宮城に来たかのような料理が待っているからだ。

今年もトライアスロンシーズンの開幕戦として、この大会に参加してきた。昨年はなかなか疲れが抜けず、思うように体が動かなかったのだが、今年はGW明けあたりから少しづつではあるが、良いときの状態に近づきつつあった。なので、今年の目標は昨年4年ぶりに逃してしまった表彰台である。

メンバー表を見ると、いつものおなじみの顔に加えて久しぶりに参加する選手の名前も見られる。長崎の内藤君もその一人だ。彼は2年前のこの大会で3位に入り、その後も実力を伸ばしている選手だ。2年前のレースでは約50秒差まで迫ったのだが、今はもう敵いそうもなかった。そうなると年代別を争うことになる神奈川の秦さんに、がんばって総合3位に入ってもらわなければ表彰台の可能性は薄くなってしまった。なんとも他力本願で情けないところではあるが現状では仕方がない。とにかくベストを尽くすべくスタートする。

スイムはここ最近では珍しく、しばらく集団の中で泳ぐことになった。秦さんがすぐ横を泳いでいるのが見える。一つ目のブイの手前で秦さんが遅れ始めた。泳ぎ始めから気持ちよく泳げているように感じていたが、やはり調子は良いようだ。少し気を良くして2つ目のブイに向かう。

2つ目のブイを回って浜に上がるまで3人の集団で進んでいった。浜に上がって周回チェックし、2周目に向かう。ここからは同じ集団の選手が遅れ始めたのか、一人で泳ぐこととなった…と思っていたが実は違っていた。遅れたと思っていた二人がずっと後についてきていたのである。ブイを回るごとに同じ色のキャップがすぐ後に見えたのだ。

僕のペースが少し落ちたせいか、3周目の中ほどで後の二人が前に出てきた。ついていけない速さではなかったのですぐに後を追う。ずっと前を引いてきたのだから、ここからは後につかせてもらうことにした。

浜に向かって泳いでいるとき、目の前が白く霞んでいることに気づいた。ゴーグルが曇ってきたのかと思ったが、明らかに違っていた。実は霧が出ていたのだ。これまでのレースで霧で前が見えなくなったのは初めてである。少し戸惑ったが、この霧が序盤の暑さを少し和らげてくれたようだ。

浜に上がってタイムを確認すると43分を少し超えてしまっていた。ただ、後からどんどん抜かれることもなく、泳いでいるときの感覚は悪くなかったので、不思議と焦りはなかった。計測ポイントから走ってトランジットエリアに向かい、ラックにかかっているバイクを見ると、まだたくさんのバイクが残っていた。やはりトップ集団を除いては全体的にタイムは悪そうである。

今回もバイクラックは秦さんと隣同士である。秦さんは序盤で遅れていたので当然ながらバイクはまだ残っていた。実はスイムで秦さんに先行するのは初めてである。バイクで逃げ切れれば勝てるかもしれない…そう思いながら準備を急いでいると、秦さんがスイムから上がってきた。少し言葉を交わしてから、僕が先にバイクスタートした。

バイクスタートしてすぐに上り区間に入る。昨年は緩やかな上りであるにもかかわらず20km/hを割り込んでしまって、離れていく秦さんの姿を見送るしかなかったのだが、今年は順調にクリアできた。このまま米山まで逃げ切れれば…そう思いながら海岸線沿いの細かなアップダウンを走るのだが、イマイチ平地区間での伸びがない。それどころか、後方から追って来る選手の姿がはっきり確認できた。一人はスイム終盤で前に出てきたうちの一人…そして、少し遅れて確認できたのは秦さんだった。

平地区間でどんどん差を詰められ、少し上りに入ったところで追い抜かれる。そして、下ってからはどんどん差を広げられ、米山への上りに入る頃には2人の姿は見えなくなってしまっていた。もう少し粘れると思っていたのに、ここで大誤算である。

米山の上りに入ってからもあまり伸びは感じられなかった。このままではまた後続の選手に追いつかれるかも…そう思いながら走っていたが、その気配も感じられなかった。1周目の後半に入って前方に選手が見えるが、追いついてみるとすべて周回遅れだった。こうして、バイク序盤で早くも順位が固まってきたようだった。

2周目に入ってからも調子は変わらない。米山が少し楽に感じたが、劇的な伸びが期待できるほどのものではなかった。前を走っているであろう選手たちの顔ぶれを思い浮かべると、とても追いつくような気はしない。もちろんここで諦めたわけではなかったが、少し気が抜けたような感じがしたのは確かである。追うことも追われることもない…少々緊張感に欠ける展開になりつつある中でバイクを終えるのは、なんともいえない奇妙な気分だった。

バイクを終えてトランジットエリアに向かうときに、ラックにかかっているバイクの数を数える。バイクの途中で思い浮かべた選手の数と同じだけのバイクがかかっていた。現在8位である。

ランに入ると思っていた以上に足が軽かった。といっても、前を走る選手の中でランに弱点があるような選手は思い浮かばなかった。ランは序盤に上りが多いので、まずは自分のペースを作ることに努める。暑さはさほど気にはならなかったが、米山の上り口に向かう急坂で右足の太ももが攣りそうだった。気を抜くと歩いてしまいそうになるが、必死にこらえる。やっとの思いで急坂をクリアしたら、海岸線に入るまで今度は急な下りだ。ここでリズムを作るべく少しだけピッチを上げた。

海岸線まで下ってくるとトップの伊藤君がやってきた。と、その50mほど後には池形君ともう一人女性の選手が見える。今年デビューしたという期待の新人、柴田さんだ。ここは最後の踏ん張りどころなので、伊藤君に「もうちょっと!がんばれ!」と声をかけた。

そこから少し一人旅が続き、折り返しに近くなったところで何人かとすれ違う。その中に秦さんがいた。僕が追いつけそうな距離でもなく、秦さんのトップ3入りも厳しそうなので、この時点で年代別1位は秦さんが獲る可能性が高くなった。「がんばって!」と、タッチをしてすれ違う。

折り返してから後方の選手を確認すると、西彼杵郡の江頭君が下りのせいもあるが勢いよく走ってきた。差は500mくらいだろうか?後姿さえ見せなければ逃げ切れそうだ。ここまで緊張感なく走ってきたが、少しだけ後を意識して走り出した。

海岸線の平坦区間で何度か後を確認するが、追って来る選手は見えない。米山の上り口に向かう最後の坂まで逃げ切ればもう大丈夫…そう思いながら急坂で歩きそうになるのを必死にこらえて走った。頂上のエイドを過ぎるとあとは下りだ。ここで調子に乗るとかえって痙攣しやすいので慎重に下る。開会式会場の「しおさい」の横を通って港に向かう道路を下りきると、あとはフィニッシュまでほぼ平坦である。ここで今一度後を確認したが、追って来る選手は見えなかった。

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結局ランでも順位は変わらず総合8位でフィニッシュ。年代別1位はやはり秦さんで、今年も表彰台を逃してしまった。調子が戻ってきた感覚は確かにあったのだが、そこからの積み上げが足りなかったようだ。今年はまだ、長崎西海、ひわさ、宇久とレースが続く。まずはしっかりと疲れを取って、シーズン後半向けて調子を上げていきたい。

坂口晃一